スガワラ’s blog

日々思うことを書き連ねます。

芸術を深読みする楽しみ

 

この本を読んで感じたことは、芸術の奥深さと、それを掘り進んでいく喜びだ。

奥深い音楽はもちろん一筋縄ではいかない。少し見てみるととても無愛想で、時に不快で楽しいことばかりではない。

そもそも楽しい、という感情はそんなに簡単に得られるものではない。楽しいことをしよう!とビジネス書は喧伝するが、多くの人は心から楽しむことが見つかられない、出会わいから悩んでいるのだ。

閑話休題

 

筆者は東欧音楽の中心とした、音楽学者だ。音楽学、というと何をやっているのか?と訝しる方も多いかもしれないが、音楽というものを作品的、文化的、歴史的にとらえる学問だ。日本では歴史の浅い学問だが、欧米では18〜19世紀頃から成立した学問である。

 

このエッセイでは、筆者が見聞きし、直接訪れた場所で感じたこと、思考したことが書き連ねられている。芸術に答えはない。どう考えたかは個人の自由である。しかし、この筆者が考えたことはとても興味深いものばかりだ。

トーマス・アデスのオペラを日常生活とリンクさせたり、オーストリアハンガリー国境のドライブで「パン・ヨーロッパ・ピクニック」の場所で想いを馳せ、「レヒネットの虐殺」を感じる(この章の「越えられない国境/未完の防衛戦」が本書のサブタイトルだ。一方で、宇多田ヒカル藤圭子の出自から彼らの音楽性を論じたり、ウラジオストクの街並みからロシア音楽を考察する。思考の範囲がとてつもなく広く、恥ずかしながら知らないことばかりで知的で想像力を刺激する。

芸術は、やはり普通の状態ではなかなか生まれない。違う文化が衝突したり、何か尋常ではない他人の思考であったり、「普通ではない」ことから生まれるのだ。

そう思えばヨーロッパは異文化が入り乱れており、特にバルカン半島は民族の宝庫だ。戦争さえなければ豊かな文化、芸術は花びらいたのではないか、と考えてみたりもする。

いつもと違う思考というのは、絶えず、違う視点との衝突でもたらされる。

自分勝手では新しいものは生まれないのだ。

 

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